最高裁判所第一小法廷 平成3年(オ)1762号 判決 1994年7月14日
上告人
大分県北生コンクリート事業協同組合
右代表者代表理事
重松幹雄
右訴訟代理人弁護士
山本洋一郎
西畑修司
被上告人
山忠商店株式会社
右代表者代表取締役
山村忠
右訴訟代理人弁護士
河野浩
主文
原判決を破棄する。
被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人山本洋一郎、同西畑修司の上告理由第一点について
一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
1 被上告人は有限会社三興所有の第一審判決別紙物件目録一の建物(以下「本件建物」という。)につき順位一番の根抵当権設定登記を経由したところ、本件建物は工場抵当法(以下「法」という。)一条にいう工場に属する建物であるのに、右設定登記について法三条に規定する目録(以下「三条目録」という。)は提出されていなかった。上告人は後順位の抵当権者であるが、その抵当権設定登記については三条目録が提出され、右目録には第一審判決別紙物件目録二の物件(ミキサー、集塵機、ベルトコンベアー、各種計量器等八点。以下「本件物件」という。)が記載されていた。
2 その後、本件物件を含む本件建物等について、競売手続が開始された。執行裁判所は、売却代金の配当に当たり、上告人の抵当権については三条目録が提出されていたことから、上告人には本件物件の売却代金に相当する額を被上告人に優先して配当することとし、上告人には二五八二万八六三五円を、被上告人には合計一七八八万五三一八円の債権届出に対して八三〇万七一五四円を配当する旨の配当表を作成した。
3 本件物件は、生コンクリートを製造するバッチャープラントを組成し、生コンクリートの材料投入から製品完成までの各製造過程の用に供される各機械器具が、機能上連続作業が可能なように設置され、製造過程ごとに各階層を有するタワー状をなしている。
本件建物は、鉄骨造り鉄板葺き・高床式三階建ての建物で、三階が受材室、二階が貯蔵槽、計量室及び操作室、架台の上の一階がミキサー室となっており、受材室は一個、貯蔵槽は六個、計量室は二個、操作室は一個、ミキサー室は二個の各ユニットから成り、これらをコンクリートの架台の上に順次結合して築造されたものである。
本件物件のうち前記物件目録二の八のベルトコンベアーは、建物外に設置された支柱で支えられ、三階受材室の外壁をくり抜いた部分の鉄製の枠にヘッド部分を突き込む形で立て掛けられており、また、二階上部(三階床部分)の鉄柵にボルトで固定されている。同目録の一ないし五の各計量器は、天井のはりの鉄骨にボルトで固定されたフックで吊り下げられており、同目録の六及び七のミキサー及び集塵機は、いずれもミキサー室の床(コンクリートの架台)にボルトで固定されている。
二 本件訴訟は、本件建物について設定した被上告人の前記根抵当権の効力は本件物件にも及んでいるから、被上告人は本件物件の売却代金につき上告人に優先して配当を受けることができると主張して、前記配当表の変更を求めるものである。
原審は、抵当権者は、工場に属する土地又は建物について抵当権設定登記を経由すれば、法三条に規定する物件についても第三者に対して抵当権の効力を対抗することができ、三条目録の提出によって対抗要件が具備されるものではないと解すべきであるとした上、本件建物につき順位一番の根抵当権設定登記を経由した被上告人は、上告人に優先して本件物件の売却代金から配当を受けることができるとし、被上告人の請求を棄却した第一審判決を取り消してその請求を全部認容した。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。
工場の所有者が工場に属する土地又は建物の上に設定した抵当権(以下「工場抵当権」という。)は、その土地又は建物に付加してこれと一体を成した物及びその土地又は建物に備え付けた機械、器具その他工場の用に供する物(以下、後者を「供用物件」という。)に及ぶが(法二条参照)、法三条一項は、工場の所有者が右土地又は建物につき抵当権設定の登記を申請する場合には、供用物件につき目録(三条目録)を提出すべき旨を規定し、同条二項の準用する法三五条によれば、右目録は登記簿の一部とみなされ、その記載は登記とみなされている。また、法三条二項の準用する法三八条は、右目録の記載事項に変更が生じたときは、所有者は遅滞なくその記載の変更の登記を申請すべき旨を規定している。
右各条項の規定するところに照らせば、工場抵当権者が供用物件につき第三者に対してその抵当権の効力を対抗するには、三条目録に右物件が記載されていることを要するもの、言い換えれば、三条目録の記載は第三者に対する対抗要件であると解するのが相当である。
もっとも、土地又は建物に対する抵当権設定の登記による対抗力は、その設定当時右土地又は建物の従物であった物についても生ずるから(最高裁昭和四三年(オ)第一二五〇号同四四年三月二八日第二小法廷判決・民集二三巻三号六九九頁参照)、工場抵当権についても、供用物件のうち抵当権設定当時工場に属する土地又は建物の従物であったものについては三条目録の記載を要しないとする考え方もあり得ないではない。しかしながら、供用物件のうち右土地又は建物の従物に当たるものについて三条目録の記載を要しないとすれば、抵当権設定の当事者ないし第三者は、特定の供用物件が従物に当たるかどうかという実際上困難な判断を強いられ、また、抵当権の実行手続において、執行裁判所もまた同様の判断を余儀なくされることとなる。したがって、法が供用物件について三条目録を提出すべきものとしている趣旨は、供用物件が従物に当たるかどうかを問わず、一律にこれを三条目録に記載すべきものとし、そのことにより、右のような困難な判断を回避し、工場抵当権の実行手続を簡明なものとすることにもあるというべきである。
そうすると、これと異なる見解に立って、被上告人の請求を棄却した第一審判決を取り消してその請求を認容した原判決は、工場抵当法の解釈適用を誤ったものというべきであり、その違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであって、この点の違法をいう論旨は理由があり、上告人のその余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、前記の事実関係に照らせば、本件物件が供用物件に当たることは明らかであり、被上告人の工場抵当権については本件物件につき三条目録が提出されていなかったのであるから、被上告人は、本件物件について工場抵当権を有する上告人に優先して本件物件の売却代金から配当を受けることはできないものといわなければならない。したがって、右に判示したところと結論を同じくする第一審判決は正当であって、被上告人の控訴は理由がなくこれを棄却すべきものである。
よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官三好達 裁判官小野幹雄 裁判官大白勝 裁判官高橋久子)
上告代理人山本洋一郎、同西畑修司の上告理由
第一点
一 はじめに
原判決には、工場抵当法二条、三条、民法一七七条の解釈・適用を誤まり、「工場抵当権者は、工場に抵当権の登記を経由することで、(同法)三条目録の提出とは無関係に、工場のみならず、工場供用物についても、抵当権の効力を(後順位抵当権者又は一般債権者に対する関係で)対抗することができる」旨判断(原判決四枚目裏六行目から一一行目まで、同七枚目表一一行目から裏七行目まで。なお、前記「 」中の( )部分は上告人訴訟代理人が補足)した違法があり、右原判決の判断は大審院裁判所の及び最高裁判所の判例にも反するものであって、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるので、破棄されるべきである(民事訴訟法三九四条)。以下、その理由を述べる。
二 上告人の主張
1 工場抵当法二条の立法趣旨
民法は「抵当権ハ其目的タル不動産ニ『附加シテ之ト一体ヲ成シタル物』(以下「附加一体物」という)ニ及フ」と定めており(民法三七〇条)、民法自体には、動産を独立対象とする抵当権の制度を欠いている。従って、工場に備置された機械、器具その他工場の用に供する物(動産)を担保として工場経営者が金融を得ることは民法の制度上は困難である。しかし、近代産業の発展にとって、少なくとも工場内の生産設備たる動産についてはその導入が不可欠であって、かつ、その価値も高く、抵当化の必要性と有用性に豊んでいること等に鑑み、工場抵当法は、工場に属する土地又は建物の上に設定したる抵当権は附加一体物のほかに『備附ケタル機械、器具其ノ他工場ノ用ニ供スル物』(以下、「工場供用物」という)に及ぶ旨定め(工場抵当法二条一項、二項)、抵当権の効力が及ぶ範囲を特別法で拡大し、もって工場経営者が金融を得易くする道を開いたものが同法二条の立法趣旨である。
2 工場抵当法三条の立法趣旨
本来、抵当権は目的物の「担保価値」を「排他的に支配」する物権であり、しかも抵当権は目的物に対して何ら物理的・外形的接触を生じないものであるから、その公示は、占有に頼ることができない。そこで近世法は抵当権の公示手段として登記制度を採用した。むしろ、登記による公示制度そのものが抵当権制度の発達とともに確立されたものである。
このように、抵当権の制度とその登記による公示制度とは不可分に結合されたものであるので、抵当目的物の効力の及ぶ範囲を拡大するについてはその拡大された物についての明確な公示方法が定められなければ取引の安全を図ることはできない。そのため、工場抵当法は、その二条で、抵当目的物の範囲を拡大する一方で、その三条一項で、工場に属する土地又は建物につき抵当権設定の登記を申請する場合においては「備附ケタル機械、器具其ノ他工場ノ用ニ供スル物ニシテ前条ノ規定ニ依リ抵当権ノ目的タルモノノ目録ヲ提出スベシ」と定め、その三条二項(で準用する同法三五条)で、工場供用物の「目録ハ之ヲ登記簿ノ一部ト看做シ其ノ記載ハ之ヲ登記ト看做ス」と定め、もって公示方法の整備・明確化をも図っているのである。(「注解不動産法3 不動産担保」青林書院一九九〇年二月発行四〇八頁は「工場供用物件は、備付という事実はあるにせよ独立の取引の対象となりうるので、抵当不動産の公示とは別に公示する必要があると考えられた」とする。以下、同書を「注解」と略して引用する。)
3 工場抵当法三条と民法一七七条との関係、工場供用物の第三者対抗要件
右のとおり工場抵当法が、提出された同法三条目録を登記簿の一部とみなしその記載を登記とみなす旨定めたのは、すでに民法が「不動産ニ関スル物件ノ得喪及ヒ変更ハ登記法ノ定ムル所ニ従ヒ其登記ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ズ」と定め(民法一七七条)、不動産登記法がこれに添う登記制度を定めていることからすれば、この不動産物権変動における公示方法たる登記を第三者対抗要件とする制度に、工場抵当権の効力の及ぶ工場供用物の公示方法も結合させ、第三者対抗要件とするためであると解さざるを得ない。
このことは、文理解釈上も、工場抵当法三条が、「目録ハ登記簿ノ一部ト看做シ其ノ記載ハ登記ト看做ス」と端的に表現した同法三五条規定を、そのまま準用する立法形式をとっていることからも明らかである。
以上から、工場供用物についての第三者対抗要件が提出された三条目録に従うものであることは明らかである。
三 原判決に対する批判
1 原判決の判断
以上の見解に対して、原判決は、「工場抵当権者間及び一般債権者に対する関係において、工場について抵当権の登記を具備すれば、工場抵当法二条一、二項が規定する工場抵当権の効力の及ぶ範囲についての対抗要件としては必要かつ十分であり、それ以上に、三条目録として記載すべき物件について、三条目録の提出がされることによりはじめて対抗要件が具備されるものでない」と解し(原判決四枚目裏六行目から一一行目)、その理由として五点を挙げている(原判決五枚目二行目から七枚目表七行目まで記載の1ないし5。以下、理由1ないし5、という)。順次検討する。
2 理由1について
原判決は「工場抵当権の法的性質は、民法上の抵当権にほかならないものと解す」とする。この点は上告人にも異論はない。
3 理由2について
原判決は「民法上、抵当権の効力は『目的タル不動産ニ附加シテ之ト一体ヲ成シタル物』(民法三七〇条本文)はもちろん、目的不動産の従物(民法八七条一、二項)にも及ぶ(最高裁昭和四四年三月二八日判決・民集二三巻六号六九九頁)ものである」とする。
このこと自体に上告人も異論はないが、後記の理由3との関係において重要であるので、右民法上の判例理論の登場時期について一言しておく。即ち、右判例理論が初めて確立したのは、大審院(連)判大正八年三月一五日民録二五―四七三によってである。他方、工場抵当法が制定されたのは明治三八年三月一三日からであり、同法制定後に右大審院判決が登場したものであって、その逆ではない。
4 理由3の前段について
(一) 原判決は理由3の前段において、「三条目録対抗要件説が、工場供用物が従物であると否とにかかわらず、同目録の提出がない場合には、工場供用物に工場抵当権の効力は及ぶが第三者に対抗できないと解するのであるなら」、「従物である工場供用物の場合には、不動産につき抵当権の登記があれば、その効力は従物にも及びこれをもって第三者に対抗することができるとする民法上の抵当権に関する従来の判例理論との整合性を欠くことになる」とする。
(二) しかし、前述のとおり、工場抵当法が制定されたのは明治三八年三月一三日であり、前記大正八年三月一五日大審院判決が登場するまでは、大審院は工場抵当法制定後においても民法上の抵当権に関して抵当権設定時に存した従物に抵当権の効力は及ばないと解していたのである(大判明治三九年五月二三日民録一二―八八〇頁ほか「注解」二六〇頁参照)。
従って「不動産につき抵当権の登記があればその効力は従物にも及びこれをもって第三者に対抗することができるとする民法上の抵当権に関する判例理論」を念頭に置きこれを立法趣旨として工場抵当法が制定されたものでないことは明らかである。
かえって、前述のように、民法上、従物が抵当権の目的物の範囲に含まれるか否かが不明瞭、ないしむしろ否定的な状況下にあって、工場経営者に工場の土地又は建物に備附けたる機械、器具その他の工場供用物にも抵当権の範囲を拡大する特別法として制定されたのが工場抵当法であり、「この工場供用物を積極的に明文化したことにまさに工場抵当権の真骨頂がある」と評されるゆえんである(前掲「注解」四〇三頁参照)。
ただし、工場抵当法が「工場ノ所有者」にその要件を限定し(同法二条)、かつ、「工場」の要件も限定列挙し(同法一条)たため、その適用範囲は極めて限定され、これら要件に欠ける事例について、民法上救済すべく登場したのが前記大正八年三月一五日大審院判決であり、これを継承したのが原判決引用の最高裁昭和四四年三月二八日判決民集二三巻六号六九九頁である。
(三) 従って、特別法たる工場抵当法二条、三条の解釈適用をするに当って、一般法たる民法上の抵当権に関する判例理論との整合性を求めること自体誤りである。
(四) この点は、判例理論の形成経過の他に、民法・工場抵当法の各条項からも明らかである。即ち
(1) 従物と抵当権との関係につき、民法には「抵当権ハソノ目的タル不動産ニ附加シテ之ト一体ヲナシタル物ニ及ブ」旨の定め(同法三七〇条)と「従物ハ主物ノ処分ニ随フ」旨の定め(同法八七条)はあるが、「抵当権はその目的たる不動産の従物に及ぶ」旨の明確な定めはない。
このため、一部の学説は、民法三七〇条に現時における合理的内容を与えるべきとして、同条の「附加一体物」の概念に従物も含まれるとの拡大解釈をする(我妻栄「新訂担保物権法(民法講義Ⅲ)」〔三八〇〕)。
仮に民法の解釈論として右の解釈が許されるとしても、工場抵当法には、「抵当権ハ其ノ目的タル不動産ニ附加シテ之ト一体ヲナシタル物及備附ケタル機械、器具其ノ他工場ノ用ニ供スル物ニ及ブ」旨明確に定められている。そして、その文理上及び立法趣旨からして、同法二条の「備附ケタル機械、器具其ノ他工場ノ用ニ供スル物」には従物が含まれると解釈されている(「注解」四〇三頁)。従って、同法二条の「附加シテ之ト一体ヲナシタル物」の解釈に関する限り、この概念に従物が含まれると解すべきではない。
(2) 加えて、民法上には、登記手続との関係で、「不動産につき抵当権設定登記を申請する場合においては、従物の目録を提出すべし」との定めもなければ、「その目録は登記簿の一部とみなしその記載はこれを登記とみなす」との定めもない。
このため、前記学説では、登記公示制度との整合性を図るため実体上の「附加一対物」の概念の拡大解釈を図ろうとする。
仮に民法の解釈論として右の解釈が許されるとしても、工場抵当法には、工場供用物についてのみ、目録を提出すべし旨の明確な定めが存し(工場抵当法三条一項)、その目録を登記簿の一部とみなしその記載を登記とみなす旨の明確な定めが存し(同法三条二項による同法三五条の準用)、登記公示制度との整合性が立法上図られている。
従って、少くとも工場抵当法の解釈に関する限り、同法の「附加一体物」を拡大解釈することは、同条三条一項、二項の存在意義を没却し、同一立法上の前後の条文の整合性を奪う結果となる。
(3) 思うに、民法上の抵当権登記の対抗力が従物にも及ぶとする理論は公示の面からすればはなはだ不明確なものであって、これを三条目録が整備された工場抵当法の解釈にそのまま適用するのは不合理である。
民法上の抵当権の効力が従物に及ぶとする判例理論を前提としても、従物についての公示方法をどうするかについては議論の余地のあるところである。判例が前記のように抵当権登記をもって従物の対抗要件とするとしているのは、従物と附加一体物との区別が必ずしも容易でないことに加えて、動産たる従物の対抗要件としては、民法上は占有しかなく(民一七八条)、この占有を従物独自の対抗要件とした場合には、非占有担保権である抵当権の性質に反することになるからである。
しかし、工場抵当法は、工場の従物について独自の公示方法、対抗要件である三条目録を整備し、前述したように附加一体物と従物とを明確に区別して登記すべきことを規定している。しかも、三条目録という公示方法は何ら従物の占有移転を伴うものではなく、まさに非占有担保権である抵当権の性質に適合した公示方法なのである。
このように、工場抵当法は、民法上不明確であった抵当権の効力が従物にも及ぶか否か及び効力が及ぶとした場合の従物についての公示方法をどのようにするかを含めて立法的に解決したものであり、民法上の抵当権における「抵当権登記は従物についても対抗要件となる」旨の解釈を工場抵当法の解釈に持ち込むべきでない。
(五) 確かに、いわゆる従物については、民法上の抵当権に関する判例理論に比し、一見、工場抵当法では三条目録の提出まで必要とされ工場そのものの登記の対抗力を制限する機能を果すことになるように見える。しかし、前記二、1、2の同法の立法趣旨に照らせば、工場抵当法が近代産業の発展に不可欠な物件に限って、かつ、その対象者を特定の工場の所有者に限定した特別法である以上、その制度の利用者である(第一順位の)抵当権者に、同法に定めた三条目録提出義務を果させこれすら怠った場合には第三者対抗力を与えないとすることは、格別酷な結果を強いるものでない。
(六) むしろ、従来の判例理論との整合性を求めるのであれば、端的に工場抵当法に関する従来判例理論との整合性を求めるべきである。
工場抵当法に関する判例としては、次のものがある。上告人の主張、第一審判決の解釈こそ、これら「工場抵当法に関する従来の判例理論」と整合性を有している。
① 大判大正九年一二月三日民録二六―二八号一九二八頁
「(工場抵当法)同法第三条ハ工場ノ所有者カ工場ニ属スル土地又ハ建物ニ付キ抵当権設定ノ登記ヲ申請スル場合ニ於テハ其土地又ハ建物ニ備付ケタル機械器具其ノ他工場ノ用ニ供スル物ニシテ前条ノ規定ニ依リ抵当権ノ目的タルモノノ目録ヲ提出スヘキコトヲ規定シ其ノ目録ノ記載ハ同条二項及ヒ同法第三十五条ニ依リ之ヲ登記ト看做ス可キモノナレハ抵当権者ハ目録ニ記載セラレサル物ニ対シ有スル抵当権ヲ以テ第三者ニハ対抗スルコトヲ得サレトモ抵当権設定者ニ対スル関係ニ於テハ目録ニ記載ナキ物トモ苟モ工場ノ用ニ供スル物ナル以上ハ抵当権ノ効力ハ当然之ニ及フモノト為ササル、可カラス」旨判示している。(「注解」四〇九頁参照。「判例不動産法―抵当権・根抵当権3」新日本法規出版三四七七頁参照。以下、同書を「判例不動産法」と略して引用する)
右判示は、いわゆる三条目録対抗要件説そのものである。しかも、その判決時期は、民法上の抵当権に関する前記大正八年三月一五日大審院判決の下された翌年の大正九年である。ここに、大審院の、民法上の抵当権とは別異に工場抵当法の立法趣旨を鑑みての明確なる判断が示されている。
② 最判昭和三二年一二月二七日民集一一巻一四号二五二四頁も、「工場抵当法三条目録末尾に『以上建物内に在る機械器具其他工具一切』という記載があるだけで、問題となった二馬力モーター付二機筒水圧ポンプの具体的記載がない事例について、同物件は軽徴な付属物とはいえないから、抵当権の効力が及ぶことを第三者に対抗することはできない」旨判示し、前記①の大判大正九年一二月三日判決を継承している。(「注解」四〇九頁参照)
③ また、下級審判決においても、同旨のものとして次の三判決がある。いずれも前記①②判決と同じく三条目録対抗要件説を前提とする。
(A) 東京高判昭和二九年九月二八日東高民報五・一一・二五八は、工場抵当の目的たる不動産につき、通常抵当権に基づく競売開始決定があったときは、工場抵当権に基づく競売の申立があっても、かさねて競売開始決定をすべきでなく競売記録に添付して工場備付物件についても競売手続を進行すべきであるが、工場抵当法三条一項の目録を提出していない工場抵当権者は備付物件等の価額部分については第三者に対し優先弁済の効力をもって対抗し得ない旨判示している。(以上「判例不動産法」三五〇六頁参照)
(B) 東京高決昭和四〇年三月一五日下民集一六巻三号四四三頁は、数人の抵当権者のうち家屋内の機械器具について抵当権を有するのが、後順位の抵当権者のみの場合において、一括の価額で競売すると配当が不可能になるので、このような場合には、家屋と機械器具の格別の最低競売価額を定めて公告し、かつ一括競売するほか方法がない旨判示している。
(C) 東京高決昭和五七年二月一七日高民集三五巻一号一頁は、三条目録の提出がない場合、競売開始決定の効力が機械器具に及ぶことを第三者に対抗できない旨判示している。(以上二つとも「注解」四一七頁、四一六頁参照)
④ 他方、原判決と同旨の判決は、大審院・最高裁はもとより下級審決においても見当らない。
わずかに、大阪高判昭和二九年一二月一一日下民五・一二・二〇一一と東京高判昭和三二年一一月一三日東高民報八・一一・二七八があるが、いずれも三条目録の提出そのものはあった事案で、その記載の具体性の程度について判示したものに止まる。
⑤ 加えて、原判決の見解は、これまで集積された競売実務、登記実務、法曹会決議等に全く反し、実務に著しい混乱をきたすものである。
(A) 深沢利一著新日本法規「民事執行の実務(上)不動産執行」新版七八八頁(第一審の平成二年二月二六日付被告準備書面六枚目裏一二行以下に引用)
(B) 昭和二六年一〇月二二日民事甲二〇五〇号民事局長通達「三条目録を提出しない先順位抵当権者と三条目録を提出した後順位抵当権者がいる場合、目録記載の物件は後者の債権についてのみ担保の目的となる」(「判例不動産法」三四九〇頁)
(C) 昭和三四年一一月二〇日民事甲二五三七号民事局長回答「新規追加の機械器具に対する優先権は、抵当権設定登記の順位にかかわらず、三条目録の変更登記の順位により、この場合、三条目録変更登記の順位を抵当権設定登記本来の順位と同一の順位とする登記方法はない」(「注解」四一二頁)
(D) 昭和七年三月一六日法曹会決議(法曹会一〇・五・八九)「順位第一番にて普通抵当権、同第二番及び第三番にて工場抵当法三条による目録の提出ある抵当権の設定登記ある不動産に対し順位第一番抵当権者が競売法による競売申立をなさんとする場合、右目録記載の機械器具に対しても同時にこれが申立をなすを要しない。ただし競売裁判所は土地又は建物と共に機械器具をも競売すべきも第一順位の抵当権者は土地又は建物の代価についてのみ優先権を得べきものとす」(以上「判例不動産法」三五〇八頁)
5 理由3の後段について
上告人は、三条目録対抗要件説に依拠するものであるが、従物を含んだ工場供用物につき、そう解する立場であるから、原判決の理由3の後段は理由とならない。
6 理由4について
(一) 原判決は「工場供用物は工場に備え付けられているのであるから……工場の内外を観察することにより……工場供用物の有無を容易に認識しうるのであり、先順位抵当権者が三条目録を提出していないからといって不測の損害を被るおそれはまずない」とする。
しかし、果して、このように断定できるであろうか。上告人の見解は否である。以下、その根拠を示す。大別して、第一に、工場抵当法二条の工場供用物の要件に該当するか否かの判断についてであり、第二に、同法三条の目録制度との関係についてである。
(二)(1) 工場供用物に該当するための要件は二つある。ひとつは、土地又は建物に「備附ケタル」物であること、他は「機械、器具其ノ他工場ノ用ニ供スル物」であること。
(2) このうち「備附ケタル」の要件事実の認定は必ずしも容易ではない。このことは既に学説判例においても指摘されている。「問題なのは、工場供用物件の『備附』の意味であろう。一般的にいえば、付加物ほどの強い結合関係ではないにしろ、工場不動産との一定の結びつきが必要とされるはずだが、それがどの程度のものか必ずしも明らかでない。たとえば、発電所の送電用として架設された電柱電線は、その建物に「備付」けられたものとはいえないから、工場財団が組成されなければ、当然には抵当権の目的たりえないとされる(大判昭和二年一一月一一日新聞二七六六号七頁)」(「注解」四〇三頁参照)。
また、半永久的に固定された状態のみを指すのか、ボルトで固定した程度で足るのか、一時的な仮設程度も含むのか、単に置いてあるだけの物まで含むのか、その判断は必ずしも容易でない。工場抵当法二条の適用を受ける工場供用物に該当するか否かの判断には、その物の性質、結合程度等相当の専門知識が必要であり、現地を調査、観察しただけではにわかに判断し難いのが通常である。
少くとも「工場の内外を観察することにより、……容易に認識しうる……不測の損害を被るおそれはまずない」と断定することは誤りである。
ましてや、学者・裁判官でない素人の一般人において、工場の内外の観察のみで判定させることは相当の困難を伴う。取引の安全は正にかかる一般人を基準とすべきものである。
原判決のような解釈では、同法二条の「工場供用物」に該当するか否かという必ずしも容易でない判断を後順位抵当権者に強いることになり、実際上機械器具等につき更に抵当権を設定することが非常に困難となる。これでは、工場経営者に金融を得やすくするという工場抵当法の立法趣旨に反することとなる。
(3) 次いで、「機械、器具其ノ他工場ノ用ニ供スル物」の要件事実の認定も必ずしも容易ではない。ことに文理上「常用ニ供スル」(民法八七条一項)必要はなく単に「用ニ供スル」とされている点も容易になしえない一因であろう。
その工場の本来の用途に専用の物件はともかく、工場内の計算機、マイク、照明、テレビ、応接セット等他の用途にも用いられうる物件等についての判断は必ずしも容易ではない。ここでも素人たる一般人を基準とする。
やはり少くとも「工場の内外を観察することにより……容易に認識しうる……不測の損害を被るおそれはまずない」と断定することは誤りである。
(三) さらに、工場抵当法が目録を提出させ(同法三条一項)、その目録を登記簿の一部とみなす(同条二項による同法三五条の準用)制度との関係で、工場供用物の対抗力の存否の認識がかえって容易でなくなる。
即ち、一方で、工場の土地建物の登記簿の閲覧によって、目録が存在しないことが判明した場合(なお、工場抵当登記取扱手続二五条で工場不動産の登記用紙乙区事項欄に目録提出の登記が記載されることとなっている)や、又は目録の存在は判明したが目録を閲覧した結果ある機械器具が同目録に記載されていないことが判明した場合においても、原判決の立場では、当該機械器具が工場供用物に当るか否かを「工場の内外を観察する」ことで決しなければならない結果となる。
他方で、工場の土地建物の登記簿の閲覧によって目録の存在が判明し目録を閲覧した結果ある機械器具が同目録に記載されていることが判明した場合であっても、原判決の立場では、当然機械器具が工場供用物に当るか否かを「工場の内外を観察する」ことで決しなければならない結果となる。
これでは、「三条目録は、登記簿に記載され公示されることによって、後順位抵当権者又は一般債権者に不測の損害を生じることのないよう注意を喚起する作用を意味する」(原判決七枚目表一一行目から裏二行目)どころか、かえって一般人の判断をまどわす作用を果すことになるのは明らかである。
かかる作用を果すのに、法があえて、目録登記制度を設けるであろうか。
しかも、原判決の立場では、目録登記制度は結局のところ、第三者対抗要件となりえないだけでなく、抵当権設定当事者間でも効力に影響を及ぼさず(けだし、設定当事者間については、同法二条の規定により、抵当権の効力が工場供用物に及ぶこととなっている前掲大判大正九年一二月三日)、全く無用の制度にすぎなくなる。
にもかかわらず、強いて法が詳細な目録登記制度を設けたと解すべきであろうか。「第三者対抗要件となりえない登記制度」など我国の立法例に他に例をみない立法を強いてしたのであろうか。
なお、原判決は、一方で、「不測の損害を被るおそれはまずない」と断定していながら(原判決六枚目裏三行目)、他方で、不測の損害を生じることがありうることを前提として「不測の損害を生じることのないよう注意を喚起する作用を意味する」としており(原判決七枚目裏二行目)、自己矛盾というほかなく、この点だけでも理由不備の違法がある(民事訴訟法三九五条一項六号)。
(四) 以上から明らかなとおり、原判決の立場は、工場抵当法に目録登記制度が定められていない場合のひとつの解釈論にすぎない。端的に言えば、工場抵当法から第三条二項の規定を削除すべきとの立法論にすぎない。「民法上の抵当権に関する従来の判例理論との整合性」を求めるあまり(これ自体、立法経過に照らし又特別法と一般法の区分に照らし、誤りであることは前述4、(二)(三)(四)、のとおり)、立法論を工場抵当法の解釈適用に混入させるものであると言わざるをえない。
(五) ちなみに、原判決の理由4末尾( )部分(原判決六枚目裏三行目から七枚目表一行目まで)について念のため反論しておく。
(1) ( )内の後段「すなわち、後日……との推測も可能である」の箇所については、「推測も可能」と断わってはいるが、証拠に基づかない憶測というべきものである。けだし、「被控訴人が後日になって、気付いた」事実、「債務者の財産状態が悪化したのを察知して、三条目録対抗要件説の見地から急ぎ工場抵当権者に同目録の提出をさせた」事実について、これをうかがわせる証拠すら全く顕出されていないからである。
(2) また、( )内の前段「この点で……と認められることに照らし示唆的である」の箇所については、ここで原判決が認定した事実によって、何故、判決理由が左右されたり何らかの「示唆」を与えたりすることになるのか、上告人には原判決の文意自体不明であって、理解し難い。
判決理由に影響がないゆえ、第一審、第二審とも、この点に限っての証拠調べを行わなかったし、行う必要性がなかったのである。けだし、原判決の立場によれば三条目録の記載時期は対抗力と無関係であるし、上告人の解釈によれば被上告人より先に上告人が三条目録を提出した以上その提出時期が上告人の建物抵当権登記日より後であっても影響がないからである。
なお、事実関係としては、原判決の「推測」と全く異なり、上告人及び本件根抵当権設定者は当初より司法書士に三条目録を添付した根抵当権設定登記申請を委任し、同司法書士も委任どおりに登記申請した(つまり三条目録の提出をした)ため、上告人は当然三条目録登記もなされていると理解していたところ、後日になって当時の登記官から右司法書士へ三条目録登記の登記簿への記載を遺漏していたことに気付いたので補正しておく旨連絡があったのが、真相である。
7 理由5について
(一) 原判決は、「三条目録対抗要件説をとれば(三条目録の)記載変更を具備させてやることが工場抵当権設定契約における設定者の基本的な債務の内容に包含されていると解されるから、手続上、工場抵当権者に同記載変更の請求権がないというのは理解し難たい」「工場抵当権者の保護に欠ける」とする(原判決七枚目表二行目から七行目まで)。
(二) しかしながら、三条目録の記載変更については、工場抵当法は、抵当権者の同意書またはそれに代わる裁判の謄本を添付しなければならないと定めており(同法三条二項による三八条二項の準用)、三条目録に対抗力を認めても何ら抵当権者にとって不都合はない。むしろ、記載変更について、通常の不動産の権利の登記が登記権利者と登記義務者の共同申請とされているのと同様に、抵当権者の同意書等が要求されているということは、通常の不動産登記と同様に三条目録に対抗力という強い効果を認めるものと解するのが自然である。
(三) また、工場供用物の追加設定契約をしたのに、抵当権設定者が記載事項の追加の手続をしない場合には、抵当権者は設定者に対し、追加に係る設定契約に基づき、記載事項を追加する旨の変更申請をするよう請求できるのであるから、何ら抵当権者にとっても不都合はない。これは一般的な債権的登記請求権であり、通常の登記請求権と何ら変わるところはない。通常の登記請求権も、契約・物権の効力から認められるものであって、不動産登記法に明文の根拠があるわけでなく、工場抵当法には抵当権者の三条目録記載変更請求権が規定されていないからといって、抵当権者に実体法上同記載変更の請求権がないとする原判決の解釈は誤まりである。
所有者が目録記載の変更登記をしない場合は、抵当権者が所有者に代位して変更登記申請をすることができるのである(民法四二三条、不動産登記法四六条ノ二、「注解」四〇一頁)。むしろ、三条目録に対効力を認める見解に立てば、登記権利者たる抵当権者に単独申請の権利を認めないのは、権利の登記につき共同申請の原則がとられている不動産登記法理からすれば当然のことである。
四 本件へのあてはめ
1 以上述べたところによれば、本件物件が「附加一体物」に該当すれば、被上告人が三条目録を提出していなくても被上告人の抵当権が優先することとなり、「工場供用物」に該当すればこれを記載した三条目録を先に提出した上告人が優先することとなる。
2 この点で、原判決も「本件建物と本件物件とは一体の物とはいえない」と認定している(原判決三枚目裏七行目)ものの、「工場供用物」に該当するか否かの認定を欠いている(後記上告理由第二点参照)。
この点については、顕出ずみの本件各証拠によれば、第一審判決のとおり、事実関係として、本件物件が「附加一体物」に該当しないことは明らかであり、かつ、「工場供用物」に該当することも明らかである(第一審判決六枚目裏六行目から八枚目裏七行目まで)。
3 従って、本件は、民事訴訟法四〇八条一号に該当するので、原判決を破棄し、第一審判決同様の判決をされたい。
第二点
原判決には、以下のとおり、民事訴訟法三九五条一項六号に該当する理由不備の違法がある。
一 原判決は、第一審判決別紙物件目録二記載の物件(以下、本件物件という)が工場抵当法二条に規定する「備附ケタル機械、器具其ノ他工場ノ用ニ供スル物」に該当する旨の事実認定を欠いている。即ち、
1 原判決の理由中、その一項では、当事者間に争いのない事実として、請求原因4(二)の「本件物件は本件建物に備え附けられた機械器具である」旨の摘示をしていない(原判決二枚目裏一行目から三行目まで)。
2 また理由中、その二項では、第一審判決六枚目裏七行目から八枚目表三行目までの部分を加除訂正のうえ引用したに止まり、第一審判決八枚目表四行目から八枚目表一一行目までの部分(即ち、本件物件がいずれも本件建物の「備附物」―第一審判決では工場抵当法二条に規定する「備附ケタル機械、器具其ノ他工場ノ用ニ供スル物」を「備附物」と称している―に該当する旨の認定部分)の引用をしていない(原判決二枚目裏一〇行目から三枚目裏六行目まで)。
そして、「本件建物と本件物件とは一体の物とはいえないが……本件建物が主物で本件物件が従物であると単純にいうことは憚られる」と摘示するに止まり、その後は一般論を述べるだけである(原判決三枚目裏七行目から七枚目裏七行目)。
3 そして、原判決の理由中、その四項では、冒頭で突然「以上によれば、控訴人の本件工場抵当権の効力は本件物件に及び」と結論づけている(原判決七枚目裏八行目から一〇行目まで)。ここには、「本件物件が本件建物の付加物であるか否、はたまた従物であるか否かを詮索するまでもなく」と摘示するのみで「本件物件がいずれも工場供用物であるか否か」を詮索していない。
二 原判決の述べる一般論が工場供用物であることを前提とする議論である以上、具体的に「本件物件がいずれも工場供用物に該当する」旨の事実認定が必要であり、これがないかぎり、「控訴人の本件の工場抵当権の効力は本件物件に及」ぶとの結論は導きえないことは明らかであり、従ってまた原判決主文の結論を導きえないことも明らかであるので、この点原判決に理由不備の違法がある。